存在してても気づかれない。特に役にもたってない。それでも、元気にやってます。
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その夫婦とは、新婚旅行のアメリカで会った。
当時、日本にディズニーランドは無く、アメリカ西海岸のロスのディズニーランド旅行は人気だった。
そのツアーでの日本人の新婚旅行は、私達と彼らだけだった。
ご主人がカメラマンという事で、普通のサラリーマンと違う共通点は、治安が悪いアメリカで二組の夫婦を親しくさせた。
私達は、その後ハワイへ。
彼らは帰国した。
ハワイでは、もっと多くの新婚カップルと一緒だったが、私達が親しくなった夫婦はいなかった。
帰国してからも、年賀状での付き合いが続いていた。
そんなある年の年賀状の奥さんからの一言が、私を動揺させた。
「私は脳腫瘍を患いました。」
調子の良い時もあるけれど、悪い日は家事もできず、家族に迷惑をかけている。
それでも、私は生きたい。
子供の成長を、一日でも長く見ていたい。

彼女の生きる事に対する、母としての切実な思いが短い文面からあふれていた。
その後、暑中見舞いはがきを出した事もあったが、彼女からの返信は無かった。
暮れになると喪中葉書がない事だけが、彼女の生きている証のように思われる年が過ぎて・・・
ある暮れの事、ご主人が涙声で電話をしてきた。
「我が家の年賀状係は妻です。今年は年賀状係が年賀状を用意できる状態に無く、送れませんが・・・すみません。・・・・危ないんです・・・・。」
それきり、電話も年賀状も届かなくなった。

年賀状係の代役を、彼は立てなかったのだろう。
私は、怖くて連絡ができなかった。

先日の朝、ご主人から突然電話がかかってきた。
6月に亡くなった事を告げる電話だった。
彼は酔っていた。
彼は私が出した年賀状を全部持っていた。
毎年夫婦で楽しみにしていたと言いながら・・・。
彼が手にしていた年賀状は、我が家の息子が3歳だと笑った。

その翌年は、我が家は喪中だった。
・・・年賀状を出し続ければよかった・・・
胸を締め付ける後悔に、私はご主人にお詫びをした。
それから、たった5日間くらいだった共に過ごしたアメリカの話で盛り上がった。
彼女が入籍のタイミングとパスポートのタイミングのせいで、旧姓で添乗員に呼ばれていた事とか、
ディズニーランドで、彼が奥さんに頼み込んで、できたばかりのスペースマウンテンに乗せてもらったら、
奥さんが気分が悪くなって、その後看病する事になって、後はファンタジーランドしかいけなかった事とか。
彼はまるで昨日の事のように、笑って話した。
肌の色が彼は浅黒かったけど、彼女は真っ白だったことを告げると。
彼は結婚式の前日、九州のウィンブルドンと言われていたテニスの大会で、一日カメラを回していたからだと教えてくれた。
そして、色白だった彼女の事を思い出すように「そうです。K子は、あの頃からほんとうに色が白かった・・・。」と声を詰まらせた。
一瞬、わからなかったが、彼女はずっと入退院を繰り返し、日に焼ける事がなくなっていたのだろうと感じた。
彼は仕事がら、セスナやヘリコプターなど、高い乗り物や速い乗り物にも慣れていたから、ディズニーランドでもスピード感のあるものに乗りたかったけど、彼女がダメだから乗れなかったと、当時聞いた話を繰り返した。
仕事の話になって、私は当時彼女とアメリカのホテルでした会話を彼に話した。
彼女は夫の仕事を、とても高く評価していたと。
彼は照れもあってか、疑うような事を言うので、私はさらに続けた。
「『夫の才能を信じる事ができなかったら、カメラマンと結婚できませんよ。人生預ける事なんてできない。仕事は違うけど、あなたもそうでしょう?ご主人の才能を信じているでしょう?』って、私に言ってましたよ。」私の言葉に、電話のむこうで沈黙が流れた。
次に搾り出すように彼は言った。
「僕には、そんな事一言も言った事がなかった・・・・!ほんとうに、そう言っていたんですか・・・?」
彼は電話の向こうで泣いていた。

夫婦ってなんだろう・・・。
思い出す彼らの姿は、彼が年の離れた彼女を愛おしそうに見つめる優しい眼差しだった。
彼女が誇りに思っていた彼の仕事は、彼が彼女の看病をする事で失ってしまった。
今はタクシーの運転手だという。
彼の彼女に対する誠実な思いは、時を経ても変わる事の無かった真実だった。
「どんなに家族の迷惑になっても、お荷物になっても、私は一日でも長く生きていたい。」
あの一行の重さを、私ははじめて知った。
そして、彼は私との会話で彼が知らなかった妻の思いを、時を越えて知ったのだ。



そして、彼は寂しさから酔って電話をした事を詫びて、電話をおいた。

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【2010/07/29 14:01】 | 夫婦の風景
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